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「新プロジェクトX~自動ブレーキ」今ある運転支援機能は先人の努力の賜物


出典:NHK番組「新プロジェクトX~自動ブレーキの挑戦」より《以下スクショ3枚含む》

6月22日夜7時半に放送されたNHKの新プロジェクトX 「夢は交通事故ゼロ~自動ブレーキの挑戦」を録画していたのですが、なかなか時間がとれず、先日やっと見ることができました。今でこそ自動車メーカー各社は、(国の要請により)衝突被害軽減ブレーキを搭載していますが、そんな発想のなかった1990年代、富士重工(スバル)のアイサイト開発チームのお話です。

NHKは、18年ぶりに復活した「新プロジェクトX~挑戦者たち~」を機に、旧シリーズで反響の大きかった回を月に1本のペースで再放送しています。かって私も業界は違いますが、企業戦士として頑張った時期もありましたので、この手の番組はとても共感し開発者の人たちに感動します。その前の同番組「窓際族が世界規格を作った~VHS・執念の逆転劇」もよかったです。私は、後にVHS陣営の傘下に入ったβ(ベーター)側のメーカーでしたが、同業者としてとても感動しました。

今年、3月末に納車された新型カローラツーリングは、私にとって最後の車になると思いますが、ぶつからない車をコンセプトに最新の運転支援機能が満載です。自動ブレーキに関しては、歩行者・自転車運転者寄りの走行や、自動車の車間距離が近づくと、ハンドル操作が自動で行われたり、自動ブレーキ(減速支援)が働き、運転者に注意喚起してくれます。

究極のアクセルとブレーキの踏み間違いは、ぶつからないように自動ブレーキでストップをかけ衝突被害を軽減させます。これら技術の進化も先人の努力があったからこそだと思います。

番組では、1990年代 販売台数最下位だった富士重工が、当時交通事故死者数1万人にいることに端を発し、交通事故ゼロを目指し開発が始まりました。まだ、自動ブレーキは大手メーカでさえも商品化されておらず、衝突時のエアバッグや居眠りすると警告音で注意を促すというものでした。

大きなカメラをフロントガラス上部に2台取り付けて、画像データを解析するコンピュータは後ろの荷台をいっぱい埋め尽くす状態で、とても商品化するレベルではなかったのです。途中 日産から技術を売ってほしいという話があったが、大手メーカーが出てきたらとても太刀打ちできなくなるため断ったというくだりもありました。

2000年は、さらに交通事故死者数も増え続けて、他車では、レーダーによる危険察知や、衝撃でシートベルトがきつく締まるような新技術も発表している中、新プロジェクトメンバーも増え、20人になった。カメラを改良して、車間距離や白線など様々な道路環境を認識させた。車線逸脱警報や路面凍結警告、その後、2003年には8つの機能(搭載価格70万円)を盛り込みました。しかし285台しか売れなかった。警報を知らせて注意を促しても、後の操作はドライバー次第で決まる。

2005年、頼みの主力車が売れず、富士重工は700人のリストラ。開発予算は20分の1に抑えられた。予算を削られ存続の危機にあった、運転支援機能プロジェクトメンバーも12人が残った。削ずられた予算を補充する為、県で地元企業への補助金を出す制度があり、警報ならすだけの当初申請内容では、事故は防げないことから、補助金獲得はできなかった。

当時 同業他社はどこもやっていない、自動でブレーキでぶつからない車を作ろうというコンセプトで再申請を行ったところ、県に認められて補助金がおりた。但し、期間は1年。

開発担当者は、いつどのくらいで強さでブレーキを動かせばいいのか、何百回と繰り返した。その中で、もうひとつの課題があった。自動ブレーキはどんな状況でも正確に作動しないと逆に大事故につながるので、より正確な画像認識の高い精度が必要であった。冬の北海道、深夜の首都高、北陸の海岸から火山灰のある桜島まで、チーム全員で日本全国の主要道路をくまなく回った。

さらに、どうしてもクリアできない最大の壁があった。それは夜の雨窓ガラスについた水滴で映像がにじみ、光が反射して前の車が正確に認識できない。解決の糸口が見えず、前例がないので正解が分からない。

そんなある日、車も見えない雨の降る夜の映像が開発者の目に飛び込んきた。なんとテールランプだけがはっきりと見えるではないか!これだ! あえて映像を暗くすることで水滴のギラギラを抑え、テールランプだけを捉えれば、車間距離が測定できることに気づく。すると雨の降る夜でも、コンピューターは、見事に車間距離をはじき出した。チーム全員が沸き立った。

2007年秋、開発した新機能のプレゼンが社内でプレゼンする時がきた。この会議で役員の了解が得られなければ、運転支援プロジェクトは終わる。プレゼンで開発責任者は、車が走る前に突然人形が飛び出すと車が自動で止まる映像を役員に見せた。商品化にOKがでたのは言うまでもない。2010年、ついに二つのカメラで車の完全停止を実現。搭載した車の事故率は60%も減った。世界で累計600万台以上が売れた。

2021年、国の要請もあり、各自動車メーカーで生産される車には自動ブレーキは当然のこと、ぶつからない車として、さまざまな運転支援機能をもった車が売られるようになりました。自動ブレーキについては、きっかけを作った富士重工の先人たちの努力の賜物だと思います。ちなみトヨタは、単眼カメラとミリ波レーダーで車間距離や道路状況を把握しています。